三十分後。
住宅街の中にある。普通の二階建ての一軒家がある。赤い屋根が目立つけど、割と親近感のわく造り。
俺達の目の前にある表札に日比野と書いてある。意外と早めについてしまった。
そして隣には伊織も一緒だ。出かけようとしたらちょうど夕飯の支度を終えた伊織が俺の部屋に歩いて来て、廊下で会話する形になった。それでカレンの家に行くことを告げ夕飯も外で食べてくるからと伝えると、エプロン姿だった伊織は慌てて二階へ駆け上がり、また慌てて降りてきたかと思ったら、お出かけ用のショルダーバッグを下げてきた。そして「カレンさんが心配」とか「夜、男の人が行くなんて危険」とか「お義兄ちゃんが危ないから」とか理由をつけてついてきたのだ。
ちなみに、夕飯は珍しく二人とも家にいた両親が食べるので心配はいらないらしい。父さんからは「あまり遅くなるなよ」って言われたけど、特に気にはしていないみたいだ。「あの……ウチに何か用ですか?」
家を見ていた俺たちに後ろから声を掛けられ、伊織と二人そろってビクッとなった。 振り向くとそこには、肩からスポーツバッグをかけた伊織と同じくらいの歳の男の子が、俺達二人を怪しむような眼で見ながら立っていた。「え、えとお家の方かな?」「そうですけど何ですか?」「あの、私たちカレンさんにお呼ばれしてして来たんですけど……」「ああ、姉ちゃんの友達っスか。ちょっと待ててください、呼んできますから」 そう言って男の子は乱暴な感じでドアを開け、「姉ちゃぁぁん、客きてるよぉ」って言いながら家の中へと消えていった。 すぐにカレンが出て来て「どうぞ」って招きいれてくれた。 そのまますぐに居間へと通されてソファーに伊織と座る。その対面に俺たちに飲み物の入ったグラスを用意してくれたカレンが座った。今日はお母さんは仕事に出かけているらしく、この時間はたいていが弟君と2人らしい。「三つ違いの弟なのよ」「へぇ~」慌てて席に座り直す。すっごい恥ずかしい。 それから「えぇぇ~」って顔してる(特にカレンが)三人に康介について聞いてきた事を詳しく話してもらい、伊織を加えた四人に俺が考えついた事を聞いてもらった。「そ、そんなことって」「あくまでも今の段階での俺の考えだけどね」 俺はそう言ったけど、内心では確信に思いがあったからだ。 しかし、それが事実だとするならば、俺達が今の康介に出来ることはない。その事はみんなが理解した。俺を含めた五人はそれから黙り込んで飲み物をクチに運び込む事しかできなった。 康介は待っていた。彼らがここに来ることは分かっている。 昨日突然に彼から呼び出され、今日、この時間に来るようにと言付かった。 彼らは自分に会う事を願いながらも恐れている。なのに自分たちから会いに来いという。 本当に人間とはわからないものだ。 イヤ、自分はもう忘れてしまっただけなのかあの遠い記憶を。 そして思う。 今日、この日が彼らに会う最後の日になるだろうと。 俺たちは歩いていた。 店を出て誰も話をしないままもう10分になる。行先はウチの近所にある公園だ。この時間帯なら、遊ぶ子供たちもいないだろう。 住宅街にある本当に小さな公園。今日康介を呼び出しているから俺たちは向かっている。 公園は静かだった。子供たちが遊び楽しそうな声を上がていただろう時間からはまだ間が無いだろうはずなのに、今はその面影すら感じられないくらいに。「待たせたかな?」 一人の少年と思われし幽霊が公園の中ほどに立っている。 俺が足を止めると、後ろをついて来ていた四人も同じように止まった。『いえいえ、時間などあってないようなものだから』 そう言いながらこちらに少し歩み寄ってきた。「もう、皆に姿を見せてもいいんじゃないか? できるんだろ?」 康介が微笑んだ。 ぶわっっと一陣の風が舞う。 そこに姿を現したのは、黒に
カレンの家に襲撃――という風に言っていいのかわかんないけど――があってから1週間後、今俺は昼飯を食べるために一人で校舎の屋上に来ている。考え事をしたいという事もあって、誰もいない屋上へと昇ってきたわけだけど。『なんでいつも驚くのよ!!』「なんでって、俺はそういうのに慣れてないんだって言ってるだろ!! いや慣れたくもないし!!」――危うく今日の昼飯を落としそうになったじゃねか!! 心の中でマジ切れする俺、しかしふわふわカレンもあまり機嫌がよろしくないみたいで。『なんで連絡してこないのよ!!』「え?」『普通、あんな事があったら心配とかして連絡位するでしょ?』「いやぁ、俺がいても役立たないし、連絡してもさ。それにほら、俺って女の子と話すの苦手だし」『はぁ~~、あなたってほんっっっと女の子の気持ちが分かってないのね』 プリプリカレンさんのようで、まだちょっとブツブツ言ってますけど……やっぱ怖い。『ま、あなたらしいって事にしといてあげる。それで? 考えってなに?』 気を取り直したのかあきれた顔をしながらカレンが聞いてきた。「あ、ああ、康介の事件をネットで調べてて見つけた写真があるんだけど」『うん』「事故直後の写真に写ってたんだ|彼《・》が」『そうなんだ。あなたってそういう状態の物でも見えるんだ』「そりゃぁ、写ってればそのモノ達は見えるよ」 変なとこに感心するんだなぁって思いつつ、カレンに続ける。「カレン、分かる範囲でいいんだけど、その時の周りの人の様子とか聞いてもらえないかな? 俺は関係者でもないし、康介本人とは面識がないから難しいだろうからさ」 ふわふわ浮いていたカレンの表情が少し曇るような気がした。何かを考えてるようで。『わかったわ。あまりそういう事はしたくないのだけど、今回は自分自身がかかってるもんね』「すまん、お願いできるか?」 こくんとうなずいた後にふわふわカレンはスッと消えていっ
『あんた康介じゃないじゃない!! 誰なの!!』 ふわふわ浮いたまま大声で叫ぶカレン。 壁と弟にぶつかった拍子に気絶して霊体になったらしい。まぁ、そういう事がおこっても不思議じゃないけどね、元々が生き霊さんだったわけだし。叫んでる声も、たぶん俺と康介にしか聞こえてないんだろうなぁ。 しかし今はそれどころではない。 どういう事だ?。「あんた誰よ」ってカレンが言うって事は、この康介は本当の康介じゃないってことなのか?「どういうことだカレン。アイツは康介じゃないって」『どういうって、こっちが知りたいわよ! この人は私の知ってる康介じゃないわ。顔が全然違うもん!!』 雷に打たれたみたいに体の中を何かが走り抜けていった感じ。俺は康介はカレンの知り合い、同級生だと聞いて疑わず、さらにカレンも知り合いだとばかり思って確認してはいなかった。そう本人なのかどうかだ。「お、お前誰だよ!! 俺をだましてたのか?」『う~ん、シンジ君。だますつもりはなかったんですけどね。まぁ結果的にはそういう事になっちゃうかなぁ』 目の前の人物は本当にすまなそうな顔を俺に向けてきた。『で? 本当は誰なのあんた?』『僕の名前は……と、時間がないようなのでこちらの用事を済ましてしまうかな。カレンさん、あなたは向こう側へ行くつもりはありますか?』『な、無いわよ!!』『そうですか……おっとこの辺りが限界のようですね。ではまたお会いしましょう』 そういいながら康介はスッと消えていった。「お、お義兄ちゃん大丈夫?」 隣で立ち上がろうとしていたはずの伊織が、俺の体(特に顔)を心配そうに見回している。「だ、大丈夫だ。俺よりもカレンと弟君の方を見てやってくれ」「うん、わかった」 ようやく力の戻り始めた体をゆっくりと持ち上げる。うん。どこもケガしてるところは無いみたいだ。 大きく深呼吸して心を落ち着かせた。
三十分後。 住宅街の中にある。普通の二階建ての一軒家がある。赤い屋根が目立つけど、割と親近感のわく造り。俺達の目の前にある表札に日比野と書いてある。 意外と早めについてしまった。 そして隣には伊織も一緒だ。出かけようとしたらちょうど夕飯の支度を終えた伊織が俺の部屋に歩いて来て、廊下で会話する形になった。それでカレンの家に行くことを告げ夕飯も外で食べてくるからと伝えると、エプロン姿だった伊織は慌てて二階へ駆け上がり、また慌てて降りてきたかと思ったら、お出かけ用のショルダーバッグを下げてきた。そして「カレンさんが心配」とか「夜、男の人が行くなんて危険」とか「お義兄ちゃんが危ないから」とか理由をつけてついてきたのだ。 ちなみに、夕飯は珍しく二人とも家にいた両親が食べるので心配はいらないらしい。父さんからは「あまり遅くなるなよ」って言われたけど、特に気にはしていないみたいだ。「あの……ウチに何か用ですか?」 家を見ていた俺たちに後ろから声を掛けられ、伊織と二人そろってビクッとなった。 振り向くとそこには、肩からスポーツバッグをかけた伊織と同じくらいの歳の男の子が、俺達二人を怪しむような眼で見ながら立っていた。「え、えとお家の方かな?」「そうですけど何ですか?」「あの、私たちカレンさんにお呼ばれしてして来たんですけど……」「ああ、姉ちゃんの友達っスか。ちょっと待ててください、呼んできますから」 そう言って男の子は乱暴な感じでドアを開け、「姉ちゃぁぁん、客きてるよぉ」って言いながら家の中へと消えていった。 すぐにカレンが出て来て「どうぞ」って招きいれてくれた。 そのまますぐに居間へと通されてソファーに伊織と座る。その対面に俺たちに飲み物の入ったグラスを用意してくれたカレンが座った。今日はお母さんは仕事に出かけているらしく、この時間はたいていが弟君と2人らしい。「三つ違いの弟なのよ」「へぇ~」
一番懸念されていたライブの日は無事何事もなくすぎた。 俺はもちろん伊織もライブにはチケットの都合上行けなかったが、メンバーから響子・理央姉妹経由で伊織に連絡が入ったらしい。 このライブの後の大イベントはあと4か月先までは無いらしい。 ただ、それが気がかりでもある。さすがにアイツも人が多いところでは、簡単にカレンには手を出せないだろうけど、次まで空いてしまうこの期間は割と接触のチャンスは多くありそうだからだ。 天気の良かったこの日は読みたい雑誌の発売日だったこともあり、放課後少し遠回りして帰ることにした。 ウチの学校はどちらの方向へ進んでも近くに大きな街並みに出ることで意外と便利なのだ。正門を出て、人の集まらないいつもの本屋へ向かおうとした時ポケットのケータイが震えた。「いつもの店の二階で待ってる」 カレンらしい用件だけのメッセージ。内心は「めんどくせぇなぁ」と思いながらも、あの店の方向にも本屋があったなぁと思いだし、たまには違う店に入ってみるのも悪くないかと思いなおす。 それから三十分後、指定された店の一番奥の席に見慣れた頭と顔が二つと……知らない男の子が一人座っているのが見えた。友達かな? っと思ったので邪魔しないように手前の席に腰を下ろそうとすると、見慣れた頭がクルっとホントにタイミングよく振り向いて俺と目が合った。「何でそこに座ろうとしてんの?」「え? いや、友達なら邪魔しない方がいいと思ってさ」「変に気を使わなくていいんだよ、一緒に話すためにシンジ君呼んだんだから」 おいでおいでって手招きされた。なんか俺、犬みたいだ。もう一つの見慣れた頭は理央だった。「やぁ、理央さん」「こんにちはシンジ君。まだ、「さん」付けて呼ぶんだね? 理央でいいって言ってるのに」 手をひらひらさせながら笑顔で話す理央。「うぅ~~んと、ごめん、ソレは無理かな」 なんて返していると、奥に詰めてくれた男の子が俺たちに顔を順番に向けて。「なになに? どういう知り合い? どっちかのカ
「うわぁぁぁぁぁぁぁ、ごめぇぇぇぇぇん!!」 ガバッと起きました。ものすごく勢いよく。 女子の皆さんの視線を浴びながらペットボトルの水をゴクゴクと飲んだ。 そんなに見つめなくても、もうしないのに。と、言うかさっきのシスコン発言は撤回させてほしんだけどなぁ。 深いため息をついて改めてカレンを見た。「カレン。アイツは最後君を連れていくって言ってたよね?」「ええ、言ってたわね。でも、あたしは康介とそんな約束をした覚えなんてないんだけどなぁ」 ここで、みんなの前で言うべきかを迷う。響子や理央はたぶん俺の力を共感はできていなくても、理解はしてくれているはず。問題は[セカンドストリート]のメンバーだ。彼女達には今回の件には協力者だけど、本来ならば関係のない人たち。そして先ほどの事も話を聞いても半信半疑だと思う。 それが普通の人と俺達の反応の違いなんだ。わかってはいても少し悲しい気持ちになってしまう。 でももしかしたら、このメンバーにも力を借りないと守り切れないかもしれない。 「セカンドストリートのみんなはこの先の話はたぶん関係ない。もしかしたら危ない目に巻き込むかもしれない。だから今のうちに言うけど、俺に協力できないって人は帰ってもらって構わない」 いつもの自分らしくない強い心のこもった言葉にみんなが息をのむ。しかし真剣にだからこそ届けられる思いがあると信じる。 そしてその言葉が発せられてから数分経つが誰もその場を離れてはいなかった。 心の中で「ありがとう」と繰り返す。「それでなんなの? らしくないじゃない。あんなのあなたじゃないみたいよ。まさか……またさっきの」 カレンが茶化すように話し始めてくれた。だから俺もそれに乗っかることにする。「らしくないって……確かに俺はカッコよくないけどさぁ。あんまりじゃね?」「あ、今のはあんたらしいわ」 その会話が元になり、周りに笑い声や会話が出るようになる。先